報告書「夕方逃避行」
現在夕方の終わりかけ
カラスがないている。
こどもの遊ぶ声がする。
黒、ぶち、茶トラがそろってならぶ。
カップルが家路に向かっている。
網戸からかぜが流れこんでくる。
わたしはそれらすべてを遠くから感じ取ろうとする。
ひとりで暮らし続けるわたしが、最も他者を感じるのは日が沈みかけるとき。
恋人もいなければ、すぐに会える友人もなく、家族とも離れてくらす暮らしの
味気なさをひしひしと感じ続けるのが嫌で、夕方を媒介にして逃避する。
遠くにいきたいと漠然と感じるその先に実在の場所などないから
夕方を通してこの世にない幻想に逃げ込むのだ。
日が沈むのがもっと遅くなればいい。
夕方が長くなれば、もっと遠くにいけるはずだから。